3

2005/03/26

Camera

 ふと立ち寄ったカメラ店で1960年代のキャノネットを見かけた。
 かつて我が家にも同じ型のキャノネットがあったので、思わず手に取って構えてみた。
 手触り、重さ、ホールド感、少しグリーン掛かったファインダー、ピント合わせの二重画像、染み込んだ機械油の匂い、そして巻き上げレバーがボディの下側にある独特のスタイル。あまりに懐かしくて、そのまま買って帰ることにした。
 そもそも我が家にあったキャノネットは、まだ2歳ぐらいの私を写すために父親が買ってきたものだ。多少の値引はあったにしても、きっと清水の舞台から飛び下りるような思いだったことだろう。茶色のがっちりした皮革ケースがついて、たいてい押し入れの最前列に収納されていた。古いアルバムの私の写真は、ほとんどがそのカメラで写されたものだ。
 キャノネットは父のもとで10年ほど活躍したあと、中学生になった私が譲り受け、私の最初の相棒になった。小遣いが溜まるとタバコ屋でモノクロを1本買っては商店街や公園へ出かけて、1コマ1コマを大事に撮った記憶がある。それから2年程たったある日、とうとう露出計が作動しなくなって、ついに現役を退くことになった。
 そのキャノネットはつい最近までタンスの片隅に納めてあったのだが、転居の際にどうやら処分されたらしい。父と私にとっては大変重要なカメラだったが、価値観の異なる他人にとっては、ただの壊れたガラクタにすきなかったのだろう。今回買って来たキャノネットは、もちろん私達親子が使ったものではない。けれども同型で美品のそのカメラは、どういうわけか昔から我が家にある一品のような気がしてならない。もし父が生きていたら、戻ってきたキャノネットを見て、きっと私以上に懐かしんでくれたことだろう。
 キャノネットはいま私の部屋のガラス戸棚に鎮座していて、振り向けばちゃんと視界に入るところにある。古き良き相棒が戻って来たようで気分がいい。ずっと我が家に居てもらおうと思う。



思わず購入して我が家に連れ帰ったキャノネット。
40数年経っているのだが、見てのとおりなかなかの美品である。